2013年の10月に一気に書いた文章です。
文字ばかりなので、読みにくい。
ですが、15年分の経験と、気持ちの移り変わりが書いてあります。


バラ農家をやり始めて、15年が過ぎました。
バラ育ては、毎日が実験の日々です。毎日いろんなことを、おしえられ、発見します。
そんな今までで、気が付いたことを書いてみたいと思います。
農業は本当に難しい。
毎年、環境のほうが変化するので、おなじことを同じようにやっても同じ結果にならないことも多いからです。

なので、ここに書いていることも、いつも同じ結果になるとは限りませんが
私は、もう研究者ではないので、再現性にこだわらず、気が付いたことを書いてゆきたいと思います。

そんな、バラの花育て徒然草です。

成長速度

バラの成長は、結構速いのです。私が観測した中で一番、急速に伸びたのは、まだ、プリティーウーマンという品種を植えて一年目くらいの頃だと思います。5月くらいだったと思いますが、なんと1日で10cm伸びました。正確には、80cmが90cmになったということです。花株が若いときは、とにかく茎が伸びるのが速いのです。7,8月になり、もっと暑くなると、伸びることよりも花がさくことが激しくなり、そんなに伸びません。光がたあくさんあって、温度もそこそこのバラの旬ならではの事でしょう。もちろん、品種によってもその伸び方は違います。秋になるとバラにとって一番大事な栄養素である光が少なくなり、バラの伸びる速度は遅くなります。しかしながら、花もなかなか咲かなくなるので、バラの茎はどんどんのびて、1mをこすのもたくさん出てきます。花も、咲くのに時間がかかるので、どんどん大きくなり、夏のバラの倍以上の大きさになります。冬になると、熟成期間がもっとながくなるので、もっと大きな花になります。おなじ、バラでも、春夏秋冬で、茎の長さ茎の太さ、花のボリュウムは大きく変わります。なので、弊園ではバラの値段を、季節で変えているのです。これが、輸入モノを使っているところとの一番の違いではないでしょうか。バラは、極めて繊細な農産物なのです。
(2013.10.23)



鉄骨ハウス

日本で、バラを栽培すると、高くつきます。その原因は大きく3つ、燃料代、人件費、ハウス代。台風の来る、そして、降雪のある日本では、ある程度しっかりした、ハウスを作らねばなりません。夏はかなり熱くなるので、軒も高くしなければならず、最初、600坪(2000平米)のハウスを作ったのですが、家、1軒分くらいの値段にはなりました。4季があるので、その季節に合わせて、ハウスを模様替えさせていかなければいけません。これが、結構手間を食います。アフリカや、南米の高原地方では、いつも常春で、それに、台風がないので、簡単なハウスでも大丈夫なようです。ハウスひとつとっても、日本での、バラづくりは大変です。ハウスについての、苦労話も、少しずつ書いていきます。でも、写真がないとわかりづらいかな。探してみます。
(2013.10.22)



ベト病


今日も雨です。1週間に2,3日しか、晴れません。台風と秋の長雨が続いています。そして、昼と夜の寒暖の差が激しい。寒暖の差は、乾燥しているならば、花を大きくしてくれるので、歓迎すべきことなのですが、湿度の高いときは、寒い夜間に、葉っぱに露がたまり、極端に湿度の高い状態になります。そういう時にはベト病が発生します。最初葉っぱに茶色の歯でかんだような跡があったり、茶色にちりちりしてきたかと思うと、2,3日で葉っぱがボロボロ落ち始めます。発症してしまったら、刈り取るくらいしか手はありません。7年くらい前の台風の後、なかなか雨も止まず、台風で破られたところからの雨漏りもあり、このベト病が発生してハウスの半分ほどのバラをやられてしまいました。この原因は ペロノスポラ スパルサ(Peronospora sparsa)という卵菌類に属する糸状菌(かび)です。この菌は鞭毛をもった胞子が水の中を駆け巡るので葉っぱの水玉や水耕栽培の水を伝わってあっという間に伝染してゆきます。このカビに効く農薬はメタラキシルというのがあるのですが、(リドミルMZやタチガレエースに入っている)発症してしまうとあまり効果があるとは思えません。雨降りなどの湿度が高いときに撒くと、その水分でかえって、感染を促進してしまうので、とにかく、発症したところをきりすてて、晴れてくれるのを祈るしかありません。根が生き残ってくれていれば、また新芽が出て、2,3か月たてば花を咲かせてくれるようになります。近年ベト病に効くランマンというような薬も出ていますが、この頃、ベト病は出していないので、使ったことはありません。カルシュウムやケイ素や亜リン酸カリ、それと、納豆やヨーグルトを葉面散布して、できるだけバラ自身を健康に保つようにしているからかな、と思っています。
(2013.10.20)



輸入品

バラなど花は輸入関税がかかりません。日本では土を持ち込むことが禁止されているので、鉢物は一度土を綺麗に洗い流してから、日本でもう一度植えなおさなければいけないので、あまり、輸入品の鉢物は出回っていませんが、切り花は違います。バラはいま、流通量の30%を超える量が輸入品です。輸入品も、ピンからキリまであり、ケニアやコロンビア、エクアドルから来る輸入品は立派なものも多く、市場ででも日本産のバラより高値のことがよくあります。世界中で、バラ生産が広まったので、バラは溢れている状態です。今のところ、日本より景気の良い、ロシアや中国などで消費が盛んなので、まだ、地球上で栽培されているバラの量に比べてたいして入ってきているとは思いませんが。ヨーロッパやロシア、中国などが不景気になると、日本にそれらがどっと押し寄せるのではないかと思います。ケニアには私の農場の1000倍の規模の農場などもあり、とてもまともに戦っては太刀打ちできません。バラ、の生産販売にはそう問題もありますので、「日本産のいいところを見つけて販売しなければ」と思い悩む日々です。
(2013.10.19)




農場に来られる方は、決まって「いい匂いがしますね。」と言ってくれます。でも、私たちは鼻が慣れてしまっていて、花を鼻先まで近づけないと、分からなかったりします。バラにはいろんな香りがあり、花によって強かったり、なかったりします。赤系のバラは匂いのないのが多く、たくさんの赤バラを贈った人から、「香りがなくてがっかりした。」と言われたこともありました。バラの育種の過程で、香りを気にせず、見た目だけを追っかけて育種している時代があり、その頃の品種は、香りのないものが多かったです。(香りが強すぎると生産者が大変という意見もありました)でも、近年、香りもまた、バラの本質の一つであるということで、香りのあるバラも育種されています。ピンクや、黄色系は香りの強いのも多いです。紫系は独特の香りがあります。バラの香りは7種類(人によっては6種類)に分けられています。(くわしいことはまたあとで)でも、そのもととなる香気成分の化学物質は300以上あるようで、その組み合わせでいろんな香りになるようです。私も、勉強不足なのでよくわかりませんが、どういう組み合わせでどうなるんだろうと思うと調べてみたい気がします。
(2013.10.18)




カビ

台風のように大量の雨の後、梅雨、秋雨、カラッと晴れない日が続くときは、1番に病気が心配になります。バラは、本当は原産地がどこか正確には分からないくらいどこにでも咲いている(日本でも原種のハマナスや、ノイバラ、などがあります。)花なのですが、いわゆるモダンローズと言うのは、どちらかと言うと、乾燥しているヨーロッパで育種されてきたおかげで、湿度による病気にあまり耐性がないものが多いのです。切り花用に育種された花は、見かけが綺麗なようにどんどん育種されて、温室でしか育たないような箱入り娘になってしまいました。なので、暑いけれど、からっとしている、夏より、雨がちな季節に病気がたくさん出ます。病気のもとは主にカビなのですが、カビは遺伝子を進化させるスピードが早く、カビの防除剤もピシャッと効くのは、どんどんなくなっている状態です。今は、カビを抑えるために、ヨーグルトなどの細菌を味方につけています。もともと、カビと細菌は敵どうし。なので、細菌病を抑えるために、カビから出る抗生物質を使います。どうやら、納豆やヨーグルトにはカビに対する抗生物質を出しているようで、1周間に1回くらいかけておくと、病気を予防できます。今年も、雨の時期は多かったですが、お陰で、ひどい病気にはなっていません。私は、納豆としてはおかめ納豆、ヨーグルトとしては明治ブルガリアヨーグルトが効くのじゃないかと思って、使っています。
(2013.10.17)

台風

今日は台風が来ています。雨風が激しいです。ふつう東北あたりに来ると大分弱くなるのですが、それでもかなり被害が出ます。バラのハウスでも、フイルムが破られたり、破られたところから、雨が入り、湿度が上がって、いろんな病気が出ます。7年くらい前の9月(正確に覚えていません)それほど勢力が強くない台風がゆっくりと、東北を縦断してゆきました。もうそろそろ取り替えようかと思っていた、フイルムのあちこちが破られて、雨が入ってしまいました。台風一過で、すぐに晴れるかと思いきや、その後もずっと曇り雨模様で、ボト病、うどんこ病の発生が見られました。晴れないので、薬をかけることもできずに、いました。(湿度が高いときに、農薬をかけると、湿度を高めることになるので逆効果になるといわれています)4,5、日後少し晴れまがでたので薬をかけましたが、時すでに遅し。今度はベト病が出て、農場の半分くらいの範囲で、葉っぱがハラハラと落ちてしまいました。病気にかかったところを刈り込んで捨てました。もうダメかしらとも思いましたが、ケアしてあげていたら、また新芽をだし、2か月後には花を咲かせてくれました。バラは強いなと思った、経験でしたが、その間は農場の半分は機能せず、収量はぐんと落ちました。台風でハウスがぺしゃんこになってしまうことがなくても、中から全滅することもあるんだなーと思った経験でした。
(2013.10.16)



夏は量を楽しめる、バラの楽しみの穴場

夏は日持ちがしません。でも、新鮮なバラはちゃんと咲ききります。咲ききるように、花の切り前も(切るときの蕾の膨らみ具合)少し開いた感じで切っています。バラは、花が開くにつけて首がしっかりしてくるので、ベントネックも起こりにくくなり、咲ききり易くなります。夏のバラは、「そんなに急いで咲かなくてもいいよ」と言っても咲いてくるので、花の大きさは少し小さくなりますが、お値段もとってもお安く出しています。だから、夏バラはお得です。そのことの証明する実験などを、実験の部屋に載せました。もう、秋になってしまったので、来年の夏に、思い出してください。お得です。
(2013.10.15)


アブラムシ

私は大阪生まれなので、アブラムシと聞くと、どうしてもゴキブリのほうを思い出すのですが、ここでのアブラムシは、バラの花首のところにいっぱいくっついている、つぶつぶな感じのあれです。半翅目の昆虫で、カメムシの仲間のようです。ほとんど動かずに茎にへばりついている様子を見るとどこから来たのかと思いますが、アブラムシは、柔らかそうな花芽を嗅ぎ付けて、羽のある形で飛んできます。古株にはあまり来ないのに、新株を植えたり、花芽が出てきたりすると、どこからともなく飛んでくるので、匂いなのか、電波なのかわかりませんが、そんなものをキャッチして飛んでくるような気がします。でも、アブラムシはうちの農場ではあまり問題になりません。結構どんな農薬にでも弱いので、かければ死にます。特に真夏だと、牛乳でも、酢でも、蜂蜜でも、薄くなるまで溶かした寒天でも、薄めた洗剤でも、薄めたでんぷんのりでも、かけておくと、干からびて死んでいます。なので、アブラムシは、他の虫を退治するために、1〜2週間おきに農薬をかけているような、本職のバラ園ではあまり問題になりません。問題なのは、アザミウマ、温室コナジラミ、ダニの三虫です。この15年はこれら、三虫との戦いでした。
(2013.10.14)



どれくらい持ちますか?

この質問はむずかしい。その人の好みによって、つぼみの時しか観賞に耐えないという人もいるし、咲ききるまでを日持ちという人もいるし、咲ききったのもきれいと思う人もいるし、少し花弁がちらちら散っていてもそれも桜のように綺麗と思えるスプレイバラもあり。そんなことを考えると、どの辺までを日持ちしているというのかわからなくなります。花の咲いてゆく時間は、花を置いている場所の温度と湿度によって大きく変わります。咲ききるところまでを日持ちとするならば。30度になる部屋では2,3、日で咲ききってしまうバラもあるし、5度くらいを保ってもらえれば3週間くらい大丈夫かなと思います。冬場の福島の玄関先では、1か月持つことも珍しくありません。それと、飾る人がどれだけ、こまめに手入れしてくれるかでかなり違います。クリスマスの時に贈ったバラが、バレンタインデイまで持ったという例もあります。なので、どれくらいもちますというのは実際にはとても難しいのですが、私としては、1週間以上観賞に耐えれればO.K.なのではないかと思うので、「1週間くらいは大丈夫ですよ」という場合が多いです。詳しく説明されても困りますものね。
(2013.10.13)

朝起きて夜寝ます

バラの花も、朝開き始めて、夜の間は動きを止めます。(ジュリアのような花弁の少ない花は少し閉じるときもあります。)チューリップほどではないですが、1日の変化を感じています。その様子は実験のところに動画として納めていますので、見てみてください。夜寝て、朝起きる現象は、光によるものか(蛍光灯をずっとつけっぱなしにしていても起こるので、光の影響は小さいのかもしれません)気温の変化によるものか、農場で咲いていた時のリズムが残っているのか、よくわかりませんが、とにかく顕著に動きに差が出ます。そして、この夜寝ているときの温度が低いと、花は長持ちします。まだ、実験結果としては載せていませんが、夜温が17度くらいを下回ると、急に花のもちはよくなってきます。夏でも、夜だけ冷蔵庫(5度くらい)に冷やしておくと、朝になったら、元気になり、その分日持ちが良くなります。バラが、くたっとし始めたら、少し茎を切り取り、短くして、花瓶に活けたまま、冷蔵庫に夜だけでも入れてみてください。朝には元気になっていることが多いです。そのバラの状態によって違いますので 100% 元気になるとは言えませんが、やってみて損はないと思います。バラは、かまってあげると、喜びます。
(201310.12)


バラは雨が嫌い

バラは、最初はもちろん野生で育ってました。でも、それがその美しさ追及して、どんどん品種改良してゆくうちに、温室でしか育たないような花になっていったのです。その育種も、湿度の低いヨーロッパで主に行われたせいか、日本のような、高温高湿度の環境には弱かったりします。夏の暑いときでも、乾燥しているときは、どんどん水を吸い揚げ、咲いてきますが、病気にはあまりならないのです。それよりも、梅雨の時期とか、秋雨、台風の時期は、雨がちになり、湿度が上がり、病気になりやすくなります。バラの病気は、”ボト”という病気にしても、”うどんこ”という病気にしても、そのほとんどはカビが引き起こします。そして、多くの菌は農薬に対して耐性がついてきているので、薬だけでは、効き目はあまり期待できません。そこで、カビの敵、細菌を撒いたりします。納豆菌や、乳酸菌、酵母(これはカビの仲間ですが、バラに対しては、味方です。)などを、ミキサーにかけたりして、50倍〜100倍くらいでかけてやると、花や、葉っぱに細菌たちが住み着き、カビが来るのを追い払います。細菌たちはバラの花に悪さをしません。匂いもそこで発酵するわけでないので、ほとんどしません。数年前から、にこにこバラ園では、農薬などによる力ずくの病気退治から、他の生き物に援軍を頼む方法に変わってきました。
(2013.10.11)


バラは農産物?

「バラ1本おいくらですか?」と聞かれます。返答するときに結構悩みます。質問してくれているお客様はどんなバラを想像しているのでしょう。きれいにアレンジされたバラ?ざっくりバケツに入ったバラ?それとも大輪で、1本をきれいにラッピングしたバラ?お客様と会話しながら、その辺を探っていくのですが、工業製品と違ってバラは全く同じようには咲きません。農産物ですので、同じ季節同じ品種でもばらつきが出ます。長さも違うし、花の大きさも違います。葉っぱの綺麗さや、茎の太さ等いろんな要因があり、1本の値段は違ってきます。季節、品種によって、その差はより大きく変わります。実際、「これはよくできたバラだ」と思うのは、1本500円以上で売りたいと思うし、夏場で短くて、切ってから3,4日たったバラ(花屋さんでは売り場にだしてすぐぐらいの切り花日数です、流通の関係でそうなります。)は、バケツで1000円(1本15円程度)で売っています。カタログには、5−60cm 150円から250円 と書いてありますが(花束はほかの花材も入れたり、手間がかかるのでもう少し高くなります)、冬場は花も大きくて、日持ちも良いので、1本250円位だったりすることが多いのですが、夏場は日持ちが悪いし小ぶりになるので、長いものでも、100円ぐらいで売ったりしています。そんなかんじで、バラは農産物なので、時価なのです。でも、時価というと、高級な寿司屋さんみたいで、注文しにくいだろうと思うので、一応1本いくらという感じで、お話をします。会話の最初に、「1本いくら?」と問われると、どのグレードのものが必要なのか、わからないので、「どんなものを?」というところから話は始まります。その時には、何に使うのか、どんな感じがいいのかというのを知らせていただくと、ボリュウムを考えて、「今の季節で、色はお任せで、明るい感じでよければ、2000円で15本くらい入ります。」と、いう風に、お値段を決めさせていただいています。買われる方は、バラを美術品と思われて買われるのですが、実は農産物でもあるのです。
(2013.10.10)



1年目は割とうまくいきました。

バラの生産は、日本で作るには、冬の加温、梅雨、秋雨、台風等 気候が厳しいため、割と値段が高めのハウスを造らなければなりません。赤色のバラは、紫外線を浴びると黒ずむので、ハウスに張るフイルムもUVカットのものを使います。(なのでハウスの中では、日焼けしません。)で、水耕装置を入れるので初期投資はかなりのものになります。しかしながら、バラの生産はたくさんの研究論文や文献が出ているので、1年目はそのレシピ通りやれば、そこそこのものはできます。ハウスもきれいで、カビも虫もほとんどいません。まだ、虫も、カビもそれほど耐性が付いていないので。たまに、教科書通りの農薬を撒くと管理できます。バラの株が育っていないので、収量は少なめですが(定植後3年くらいが一番最盛となります)割と、きれいなものができます。しかし、3年4年となると、虫も、カビも、そこにバラがあるということを覚え、急激に被害が増えてきて、かつ耐性が出てきて、なかなか、死んでくれなくなります。肥料も、根圏に吸い残した栄養が残っていたり、バラから出る老廃物が残っていたり、根付近のカビや、バクテリアの状態が変わってきたり、いろんな要素が入ってきて、計算通り行かなくなります。と言って、毎年改植すると、600坪のハウスなのですが、1万200株入っているので、1株300円として360万円もかかります。それだけの経費は出ません。それに、苗を交換すると、そこは半年間は収穫ができなくなります。バラが成長して、いろいろな状態が変わってしまったところからが、農家の腕の見せ所となります。いつものように収穫を続けながら、バラの成長を一番いい状態に保つ。簡単そうでかなりしんどい作業です。克服するためには、観察とトライ、そして観察。それの繰り返しになります。育てることは、なんでも同じだと思いますが。待って、見て、考えることが必要となります。農場によって、育ち方や、病気の出かたは変わってくるので、教科書どうりではいかなくなってきます。1年目のようにはいかなくなります。
(2013.10.9)


そして、大切なことは売ることです。

農業をするために、福島県に来ました。15年前福島県のバラ農家は、バラ研究会に入っている農家だけで、40軒。須賀川のJA(農協)だけでも、バラだけで、1億円近く売っていました。しかしながら、年々バラの市場価格は安くなり、どんどんみんなやめてゆき、今はバラ研究会も解散しましたので正確にはわかりませんが、福島県でバラ農家としてやっているところは、4、5軒だと思います。私の師匠もやめてしまいました。私は、最初のころから、自分で販売を始めていました。4年ほど前からは、市場出荷はしなくなり、全量自分で売るようになりました。それで何とかやって行っています。自分で売るために通信販売から始めました。最初のころはホームページを持っているだけでも珍しがられましたが、今はホームページのない企業なんかそのほうが珍しがられます。時代は変わりました。通販も最初は、大阪や東京や仙台方面の友達にミニコミ誌を送ってもらい。そこに、広告を載せるところから始めました。クレジット決済も初期のころから導入しました。今は、facebookなんかも使っています。15年という月日は広告の仕方もどんどん変えてゆきます。発送用の箱のデザインも変わりました。バラの花束もバラのあたまをそろえただけで売るところから、バラをどう魅力的に表現するかを考えて花束のデザインも試行錯誤の連続です。アレンジメントのかごのデザインも初期のころから、大分垢抜け??してきました。お客さんのクレームがあるたびに、遠方まで事故なく届けるための箱への固定の仕方や、型崩れのしにくいアレンジメントの形など、日々研究を続けています。少しでもお客様に喜んでいただくために、いつもいつも方法を考えています。売っているアイテムも、高いのから安いのまで、ラインナップを増やしています。農産物、そして嗜好品を売る。その難しさは15年でいやというほどわかりました。これからも、どんどん良い方向へと変化させてゆく努力は続くと思います。箱一つにしても、その変化には物語があります。
(2013.10.8)


育てることは、食わせること。

大学を卒業して、微生物を育てる仕事をしていました。大切な仕事は育つ環境を整えること、そして、培養液を調合することでした。子供を4人育てていますが、ご飯を作っているときは、栄養のバランス(もちろん味と見かけも)はいつも考えています、食べたものが体を作りますから。そしてバラ。バラは良い花を咲かせるには、たくさんの肥料をバランスよく食べさせなければいけません。もともとの農家ではないので、土のことはあまりわかりませんでした。なので、肥料の成分が良くわかる、水耕栽培を選んだのです。研究員の時に培養液の栄養成分の計算をしていたので、肥料の計算はあんまり苦にはなりませんでした。違いは、植物は光合成をするので、培養液(肥料)に炭水化物を入れなくてもよいということです。最初は、水耕装置を作ってくれた、JT(日本たばこ産業)のレシピ通りに作っていました。それから、師事した先生のところのレシピや、愛知園試や神奈川農試といったところの、バラの水耕で名高いところのレシピを参考に変えたりしました。しかし、なんとなく花の大きさなどが思っているのと合わないので、溶液のカルシウムやカリウム、リン、窒素の濃度を調べてもらったりすると、計算値とずれていたりします。水耕用として買った肥料がちゃんと全部溶けきっていなかったり(透明感はあるのですが計算した値が出ません)します。で、その辺から大きく自分で溶液をいじるようになりました。まさにトライアンドエラーです。研究所にいたころも同じような仕事をしていましたが、フラスコレベルでやっていたら、1回で何十とできます。培養装置レベルでも1回に何個もできます。でも。農場レベルだと、全部1系統でつながっているので、成功も失敗も、もろに収穫に響いてきます。それを年何回かしかできません。でも、農試や園試のレシピは暖かい生産地のものでどうも高緯度のところの産地とはあっていない気がしました。(私の先生のレシピも、もとは四国あたりの条件をもとにしていました)自分でやるしかありません。かなり大胆に変えたところもあり、失敗からの発見もあり。バラ株の経年による根からの栄養吸収の悪さを、葉面散布で補ったり、それはいろんなことをやっています。そんなことも書いてゆきたいと思っています。
(2013.10.07)。


農業は戦いの日々?

育てるというのは、自分勝手な作業で、自分の育ってもらいたいもののためにほかのものを弱くしたり、殺したりする作業が含まれます。自分の城を守るために、戦争を繰り返すようなものでしょうか。農業も、戦う相手は、草、虫、病気などいろいろあります。農薬という武器もありますが、草にしろ、虫にしろ、カビ(病気を起こす)にしろ、どんどん進化してゆき、武器が通じなくなります。農薬は、登録を取るのに、莫大な金と時間がかかるので(日本は特に厳しい)新しい薬はたまにしか出てきません。でも、よく効くといわれる薬でも、1年も経てばそんなに効かなくなります。遺伝子の、1残基が変わるだけで、薬が効かなくなったりするので(この話は長くなるのでまた後で)、ほんとあっという間に効かなくなったりします。どんどん濃くしてゆけば効くような気もしますが、抵抗性がある敵はその薬を失効させる酵素などを持っているので、濃さには関係なく効かないことのほうが多いのです。私の農場でも、薬の効かない虫(スリップス、日本名 みかんきいろあざみうま)が増殖し、もう農場をやめようかと思うくらいの被害がでました。で、いろいろと、試した結果、蜂蜜(一番安い加糖蜂蜜)を加えて、農薬を通常濃度で散布すると、太陽のもとで、蜂蜜にくっついて、干からびて死んでしまうことがわかり去年くらいから、スリップスにやられっぱなしではなくなりました。敵との戦いは、いろんなケースがありますが、そんなことも書いてゆきたいと思います。
(2013.10.6)




バラの生き方のお話。

お花でも、「切り花は嫌いだ」といわれる方が結構います。「切ったら死んでしまうのにそれを楽しみたくない。」というのがその理由だそうです。でも、動物と、植物ではその生きる方法が違います。動物は一度その臓器になってしまった細胞はもうその他の細胞にはなりません。(ISP細胞などでもとに戻す研究は進んでいますが)、なので、いろんな臓器(頭脳も含む)が組織だって動いている個体の死は、その動物の死ということになります。でも、植物は、細胞1個残っていればそこから、また根、茎、花などいろいろな組織にもう一度変わることができます。植物は自分のクローンを残すことが生きているということになるのです。たとえば、バナナ。今のバナナには種がありません。ではどうして、生き残っているのでしょう。答えは、人間が株分けして増やしているのです。人間がいることで、バナナは生きてゆけます。バナナは自分がおいしくて、人間に愛されている間、人間に育ててもらって一緒に生きていけます。人間とバナナは共生しているのです。バナナは、人間に嫌われた時がバナナとしての生き方を終える時なのです。バラも同じような生き残こり戦略を持っています。バラは、その品種が人間の間で人気がある間、人間の手で手厚く保護され生きてゆけます。実際、切り花用バラの品種は毎年何十種と売りに出されますが、人気のない品種はどんどん淘汰されていきます。バラの生き残り競争も激しいのです。バラは、人間の手でクローン(挿し木や接ぎ木)で生きてゆきます。人間に好かれることが、バラの生き残り戦略と言えます。だから、バラを切り花でもなんでも、愛でてあげることが、バラを保護していることになります。バラを咲かせて、切って、観賞することが、そのバラを生かせ続けることになるのです。バラがきれいな花を咲かせて良い匂いをさせることは、虫を呼んで受粉させることだけが目的なのではなく、人間に自分のクローンを残してもらう戦略でもあるのです。蘭も、ある昆虫が出てくると、その昆虫によって受粉されやすいように、花の形や、花粉袋の位置を変えるように進化して、その昆虫をターゲットにして待つようになると聞いたことがあります。ある意味、人間はバラの生き残りのために、バラに使われているともいえます。花は結構したたかなのです。だから、人間は花の虜になってしまうのです。
(2013.10.5)




農業は研究所での研究とは違ってとにかく結果。

1997年 福島の長沼町(今は須賀川市と合併)に、バラを水耕栽培している人がいるということだけで、須賀川市に家族で、移住し、半年間師事しました。 それから、林勇先生 の本を読んだり 大川清先生の本を読んだり 農業技術体系の花卉編 を読んだりして、勉強をしながら栽培を始めました。でも、農業って、確かに、作物はバラで一緒なんですが(バラは挿し木、接ぎ木で増やすのですべてクローンです) 水が違ったり、気候が違ったり、日当たり、湿度が違ったり、その農場で、かなり育つ環境が違うのです。なので、教えられたとおりにしてもなかなか、思うようなものができず、少しずつ自分なりに変えていきました。そんなお話です。
もとは研究者の端くれでしたが、農業は、研究所の研究のように、再現性を何度もとったり、普遍性を確かめたりしている暇はありません。やってみて、よさそうだと思ったら、それを続ける、というやり方で、少しずつトライアンドエラーをしてきました。なので、ここに書かれていることをやってみたけど、結果が出ないということはあると思います。でも、農業はそんなものかなーと思うこのごろです。
(2013.10.4)