けやき7号 2010年3月発行 に載せた 文章です。


にこにこバラ園はバラと人が好き

                        にこにこバラ園 園主 伊丹雅昭

人間が地球を温暖化しているってほんまかいな。

2009年夏から2010年春にかけて、エル、ニーニョだそうな。なるほど、涼しい夏と、暖かい冬。海の家の経営者は悲しかったかもしれないし、灯油屋さんはがっかりしたかも知れないけれど、バラ屋にとってはいい気候でした。バラが夏バテしなかったし、重油も余り使わずに済みました。地球温暖化というけれど、温暖化して欲しい人と、して欲しくない人の割合はいったいどれくらいなんでしょう。ロシアは北極海の氷が薄くなったので、北極付近の海底の資源を探索し始めたと言うし、グリーンランドも氷が融けて資源探査しやすくなったし、住みやすくなったので、デンマークから独立しようかという話もあるとか。そのような人々には温暖化してくれるほうが嬉しいのかなあ。シベリアに住んでる人にとっては、暖かいほうが、凍土が溶けて耕せる土地が増えて嬉しいのかもしれない。さんご礁の上にある国や、南鳥島にとっては、温暖化して水位が上がるのは、国が無くなったり領土が減ったりするので、厄介なことだとは思うけれど、「本当にすべての人類に温暖化は不幸なことなのかな」とふと思ったりする。気候変動は、地球ができてから、地球や太陽の都合で、いつでも起こっているんじゃないのかなあ。だからこそ、自然は畏れるべきもので、敬うべきものなのでしょう。本当に人間が気候の変動や気象の変動を起こしたりできるの。フィリピンの火山が爆発したとき、噴煙で世界中の日照量が減り、作物が育ちにくくなったと聞いたことがあるが、中国で出る排気ガスはどれくらい日照量に関係してるのだろう。余りそんなことを新聞でも読んだことがない。本当の所はどうなんでしょう。人間の力で、自然をかえてきたのでしょうか。確かに平安時代や、鎌倉時代に比べて、今のCO2量はここ100年で急に上昇し、1割くらいは多くなったと言うけれど、恐竜のすんでいた頃は、今の10倍以上のCO2濃度だったというし。気温も、縄文中期の三内丸山遺跡のできた頃は、今より平均気温が2度くらい高くて、日本の人口のほとんどが、東北から関東にかけての地域に住んでいたという話を聞いたことがある。古墳時代にもまた暖かい時期が在り、青森の北端くらいまで米が育てられていたとか。その後、地球は冷えて、東北地域では米が育たなくなり、狩猟型の生活に変わったとか言うことを聞くと、東北地方にとっては、温暖化していたほうが良かったのかという気もする。そんな事をつらつら考えると、本当にCO2濃度と、気温は関係するのかと疑問が沸き起こってくる。でも、ラジオや、テレビで、そんな疑問を唱えている番組も人もいないし、わたしはいったい何を信じればいいのでしょうねー。

バラ農家がバラを売る不思議。

フランスで結婚をしていて帰ってきた女性が、「向こうでは時々、バラも買っていたけれど、日本は花が高いから、なかなか飾る気にならないわ。」と言っていた。確かに、フランスのリオン辺りではそんなに高級なアパートでなくても、アパートの窓際には沢山の花が飾ってあったし、半年ほど住んでいた、デンマークのコペンハーゲンでも、結構、いろんなところに花が飾ってあって、ちょっと友達を訪れたりするときには、お饅頭代わりに、花を買っていった。さて、日本ではどうして花が高いのだろう? 確かに日本での花の生産コストは高い。日本では農業用ハウスの建設費用が高いし、燃料も高いし、電気代も高いし、人件費も高いし、このごろは肥料代も高いし、どう頑張っても、花のあまり咲かない冬場のバラは高くなる。そう思っても、花屋さんのバラの値段はやっぱり高い。その最大の原因は、バラのような高級花はあまり売れないから、捨てるロス分も考えて値段をつけているからなのだ。仕入れの3倍以上の値段をつけることになる。もう1つは、バラやユリは高級花なんだから、安く仕入れられたとしても、「安く売ったら、高級感が無くなって後がこまるでしょ。」と言う思い。確かにどちらもよくわかる話。でも、こんなに花の売れ行きが不振だと言うのに、買える値段で買ってもらえなければ、消費者も、花屋さんも、生産者もみんな不幸なんじゃないのかなー。「高いから買わないのか。買わないから高いのか。」と言っていてもしかたがない。それに、忘れられているかもしれないけれど、花は農産物なのだ。確かに、花束やアレンジバスケットは製品だし、芸術品だから、いつも同じ値段であるべきなのかも知れないが、使われている花は農産物なのだ。その値段は最盛期と端境期では4,5倍は違う。なのに、同じ値段で売っているというのは解せない。最盛期は花が咲く時期なので、日持ちはしない、そういう時は、どっさり、たっぷり、春の桜花を見るように、うつろう花を楽しむのも粋かもしれない。その頃は生産費も、仕入れも安いのだから、お客さんにも安く買ってもらって、どんどん湯水のように花を楽しんでもらうのがいいのではないかと思う。花も、人も、つぼみだけじゃ楽しくない。どんどん成長してどんどん開いて、どんどん散ってゆく、その全部が美しいのだと思う。話をもどして、お花を買わないのは花が高いのだけが原因なんだろうか。仏壇の前の菊は絶やすことがないのに、どうして自分のために花を買わないのだろう。今の日本には自分のために、花を飾る習慣がない。「アフリカのある国に、靴を売りに行ったら、靴を履く習慣が無かった。これはビジネスチャンスや否や」という命題が良くビジネス書に出てくる。これと同じで花をを飾る習慣がないので花を買わないのだから、もし飾る習慣ができれば、花の流通もよくなり、花屋さんも売れ残る心配をあまりしなくても良くなり、花が安くなり、いい方向に転がり始めるんじゃないのかなー。だって、花を飾りだすと分かるけど、ふと見るところに花のある生活は、気持ちが良くて、花がないと寂しくなる。誰が花を飾る習慣を促進させるのか。花屋さんが、もっと、テレビやラジオやインターネットで花のある生活は楽しいですよと売れっ子の俳優を使って、イメージ戦略を使ってくれればいいのだが、なかなかそれは実現しない。生産者としては、自分のできるところから始めるしかない。花屋さんに二束三文の値段で買われるより、「日持ちするし、安―い。」と喜ばれて、隣のお姉さんやお母さんに買われるほうがずっといい。そんなことを思って、バラを直接消費者に売ることをはじめた。ぱっと手が出そうな手軽な値段で気軽に部屋に飾ったり、お友達に送ってもらえれば良いなあという思いで。とにかく花を飾ってもらって、こんなに花を飾るのが気持ちがいいのならもっと頻繁に花を飾ろうと思ってもらえれば、それが、花を飾る習慣を起こすんじゃないかなと期待して。なんとなく寝る前に歯を磨かない気持ち悪いと思うようになるのと同じで(私の子供の頃は歯磨きは朝起きたときにするものだったが、すっかり夜に磨くようになってしまった)花を飾ることが日本の習慣になったら、そこからが、花屋さんの出番だ。みんなが、ため息が出るようなデザインを考えて、花束や、アレンジバスケットを作れば良い。食が足りると、グルメも生まれます。値段が高くても良い味の、いい雰囲気のレストランや、すし屋がもてはやされる。とりあえず、着るものが足りたら、デザインのいい服が好まれ、そこからブランドも生まれる。花もきっとそうなるんじゃないかなあ。有田焼も芸術作品ばかりがある訳ではなく、毎日こつこつと沢山の有田焼の茶碗を焼いている窯元もある。芸術品は、日常品の中から生まれるのだと思う。花も、みんながいつでも飾る習慣がつくと、その中から、良いデザインが生まれ、ブランドが生まれるのだと思う。生産者が愛情をかけたバラを安く売り、生活の中にバラの花を浸透させることは、技術力のあるの花屋さんを生み、沢山の花屋ブランドを作り出すことになる。日本の花が日本の生活を、その美しさで癒してくれるときが来る。その第一歩として、バラ屋が直販を始めたのです。

飾り方にもほどがある、バラ。

「お宅のバラ、もう一月も持ってるよ。」「ありがとうございます」、「こんなに暑い時期なのに、ちゃんと咲ききって1週間楽しめたよう。」「ありがとうございます。」誉めていただいているのですが、私は、感謝せずにはいられません。切花でも、バラは生きているのです。ペットと一緒で、愛情をかけて世話してもらえると、バラも長く咲いていることができます。本当にバラは、手のかかるやつなのです。

温度

バラの日持ちは、飾っている部屋の温度の影響が一番大きいのです。特に、夜の温度が重要です。病院や老人ホームで、昼も夜も23度くらいのところだと、冬でも1週間ほどしか持ちません。冬の事務所などで、昼は23度くらいでも、夜は10度以下に下がるところだと、1週間以上持ちます。冬の玄関先で、昼も夜も低い温度だと、「一月持った」とか「二月持った」とか言われる状態が起きます。5度の冷蔵庫に入れた状態なら、カビとかの病気にかからなければ、2ヶ月くらいは持ちます。ただし、凍ってしまうと、だめになります。冬場の輸送や、冷蔵での輸送事故で零下まで冷やされて凍結してしまうと、茎がグニュグニュになってしまいます。輸送のときに凍結させられないように、「凍結厳禁」シールなどを貼っていますが、時々事故は起こってしまいます。暑さのほうは、30度くらいなら何とかなります。昼間30度でも、夜に20度以下の気温になればかなり回復します。バラによっては開いていたのがまた閉じると言うこともおきます。30度を越すと、ダメージが大きくなり、日持ちはしなくなります。それでも、水揚げの良いバラは、茎が折れること無く、咲ききります。それが新鮮なバラの力です。夏場はできるだけクーラーのかかるところにおいてくださいとお願いしています。できれば、夜の間も、クーラーをかけていてもらえれば、夏場でもかなり長持ちします。夜に止めて帰ってしまわれる事業所さんなどでは、夜のうちに花がくたびれてしまいます。でも、バラのためにクーラーをつけっぱなしにする訳にも行かないですしね。真夏の部屋などでは人がいないと、知らない間に40度近くになっていることもあり、「家に帰ってきたら、バラが萎れていた。」ということもよく聞きます。少し、窓を開けたり、換気扇を回したりして、30度以下にしてもらえればいいのですが、なかなかそうも行かないようなので、一日中家を空けられている人には、夏場は余りお奨めしていません。だって、帰ってきたら、萎れたバラのお出迎えなんて、帰ってきた人も、バラも悲しいですから。

湿度

バラは、温度だけではなく湿度にも非常に敏感です。バラは、水揚げのいい花なので、温度が上がると、かなり蒸散します。蒸散によって花の周りの湿度が高くります。湿度の何が問題かというと、品種にもよりますが、湿度が100%近くになると花びらが、かび易くなるのです。花びらが、茶色く腐れてきます。茶色くなってきたら、その花びらだけ、取り去ってもらえれば、他に移るのを防げる場合も多いのですが(キャベツなんかと同じです)、特に防除回数を少なくしている日本の農家の花では湿度が高いと花びらに傷みがでやすくなります。映画などで、花に水のスプレーをしているシーンがありますが、あれは絶対にしないでくださいとお願いしています。日本の夏はそうでなくても湿度が高いのに、スプレーをされると、花の周りの湿度は100%になります。ヨーロッパ辺りだと夏の空気は乾いているので直ぐに乾くのかもしれませんが、日本では湿ったままになり、花びらが傷みます。花弁も蒸散しています。葉っぱをみんな取ってしまい、花だけで活けてみる実験をしてみると、バラの花だけでかなりの水を揚げることが分かります。茎から色素を吸わす実験をしてみると、夏場だと30分もすると、花が染まってきます、花弁の蒸散量も馬鹿になりません。花の雑誌を見ると、時々、葉を全部取り去ってバラの花だけを活けている写真を見かけますが、夏場には良い活け方かもしれません。「花にクーラーや扇風機の風をあててはいけないのでしょ。」と言われますが、そんなことはありません。直接強い冷気や風を受けていると、萎れることもありますが、そよ風は大歓迎です。風で湿度を飛ばしてもらえると、バラの花は益々蒸散し、水揚げが良くなり、元気になります。風を当てて湿度を80%以下に抑えていると、余りカビの病気に悩まされることもなくなります。バラは人間が気持ちいいと思うような環境がすきなのです。不快指数を低く保つようにしてあげれば夏場でも元気に咲ききってくれます。

@品種

バラの品種は2万種類以上あり、切花用だけでも、毎年沢山の品種が生まれます。花の咲き方も直ぐに開くものから、なかなか開かないもの、花びらの傷みやすいものから、丈夫な花まで色々あります。丈夫で、開きにくいものは、海外で輸出用に沢山作られています。日本では、長時間輸送に向かない、開きやすいものや、傷みやすいものが面白いのかなと思っています。品種によってかなりの差がありますので、夏場に早く咲いてしまうものもありますが、それも趣だと捉えてもらうと、ありがたいと思っています。

@栄養

根のついたバラは夏の日差しの中でも凛として咲いていますが、切花は強い日差し浴びると、葉面が高温になりすぎるので、傷みやすくなります。「飾るときは、日陰においてください」と言うことになりますが、これでは光合成はできません。そこで、切花用の栄養剤が役に立ちます。切花用の延命剤は、おおよそ、糖分と殺菌剤でできています。イタリアなどではお墓にバラを飾りますが、バラを生ける水の中に角砂糖を入れるそうです。水の中の糖分は茎から吸い上げられて、花を大きく育てます。糖分がないと花はエネルギー不足になり大きく花を咲かせられません。根は無くても、茎から糖分などの栄養素を補給してあげると、それで、バラは育つことができます。切花になっても花は生きて育っているのです。

@バクテリア

栄養素の溶けてる水では直ぐにバクテリアが繁殖します。バラは茎の導管を使って水を揚げますが、バクテリアの大きさがちょうど導管の穴と同じくらいなので、バクテリアが繁殖すると、導管が詰まってしまい、水が揚がらなくなります。「夏場には水をこまめに換えてください」というのはバクテリアの繁殖を防ぐためで、延命剤に抗菌剤が入っているのも同じ理由です。「花がしおれてきたときには茎を5−6cm切り上げてくださいと」言いますが、それは詰まったところを切り取って、水を揚げやすくするためです。花の栄養補給のために糖を入れなければならないのですが、糖を入れるとバクテリアも繁殖しやすくなるので、殺菌剤も不可避なのです。(花瓶に10円玉を入れると言うのも、抗菌作用があるからです。)


こんなに手がかかるのなら、バラを買うのを辞めようかと思われるかもしれませんが、だから、バラは面白いのです。ちょっと気を使って活けるだけで、どんどん咲いてゆくのが楽しめます。バラの花の表情の移り変わりは、なるほど花の女王、他の花にはマネができないのではないかと思っています。

色々書きましたが、とにかく、バラを日持ちさせるには、良く見て愛でてやって、水を換えたり、水切りしたり、話しかけたりして、かまってやってください。バラはそれに応えてくれます。



今年は、もうやめておこうかと思いながら、書いてみると、長々と書いてしまいました、きっと伝えたいことがいっぱいあるのですね。なんとなく、まとまりも無く書き散らかした感じのする文章になってしまいましたが、読み手の力に期待して、そのまま原稿としてしまいました。素人の文章だと言うことで許していただければと思います。この度も参加させていただきありがとうございました。

にこにこバラ園 園主 伊丹雅昭